第3回 醸造技術者のためのワークショップ 参加レポート

    メルシャン株式会社 生産部
    田村隆幸 様

 

    日本ワイナリー協会の新しい取り組みである「醸造技術者のためのワークショップ」も、はやくも3回目となりました。今回はセミナーが2本立てと、充実したプログラムでした。

    第1部 過去から未来へ 師弟二人の造り手が語る造りの進化

    
             
    
        

            師匠としては、小林敦子さん(豪州スモール・フォレストのオーナー醸造家)が、弟子としては、赤尾誠二さん(都農ワインの醸造家)が登壇し、弟子から師匠へ様々な問いかけという形でセミナーは進みました。
             師弟関係の背景とは、都農ワインを立ち上げる際に、コンサルタントとして小林さんが関わっていらっしゃったところからきているそうです。
            
            話は脱線しますが、実は、小林さんは、第一回ワークショップでも講師を務められました。彼女が、Upper Hunterで、ワインを造る意味についての想いを語る姿が目に焼き付いています。Rosemountが撤退して、農地が減っていること。元々シャルドネの産地だったのにかかわらず、ソーヴィニヨン・ブランがもてはやされる市場に流され、シャルドネの樹が抜かれてしまったこと。ハンター・ヴァレーには主に露天掘りの鉱山が多く存在し、対立していた鉱業と農業の架け橋となること、その想いを語る姿は、とても印象的でした。日本でワインをつくる私たちも、なぜ、ここで、ぶどうを造るのかを、あらためて自分に問うてみなければならないかもしれません。
            
            その時に試飲させていただいた中で、シラーズのロゼに感銘を受けました。ロゼワインの造りについて説明を伺ってみると、赤ワインを造るシラーズと、ロゼワインを造ろうとしたシラーズは、収穫時期が異なるという事でした。ロゼ向けの収穫時期と赤ワイン向けの収穫時期では、酸の組成・印象が大きく異なります。今後のロゼワインへの取り組み方を見直していくきっかけになるのではないかという試飲でした。脱線が長くなったので、話題を第3回ワークショップに戻します。
            
            都農ワイン立ち上げは、1996年とのことで、20年という時間を感じる部分がありました。たとえば、都農ワインでは洗浄にオゾン水を使用しているとの説明があった時に、小林さんから「使いにくくないか」との指摘がありました。赤尾さんもたまらず「当時小林さんの勧めで導入したのですが・・・」と返していました。そのほかに、昨今の日本ワインへの注目で、製造免許の取得が当時より容易になっているのではないかということがありました。20年の間に、社会環境の変化や技術要素の捉え方の変化が起きていると感じました。
            
            試飲では、赤尾さんが、「今日の参加者の中には、この甘味を嫌う方がいらっしゃるかもしれませんが・・・」と紹介されたシャルドネについて、小林さんが「産地のみなさまがこの味を好んで飲まれるというのがよくわかる。産地のみなさまに好まれるワインを造るのはよいことだ」というコメントがあり、なぜその地でワインを造っているのかを考えるきっかけになることと感じました。
            
            溶存酸素管理の話題がありました。小林さんのワインも充填工場へバルク出荷するときに溶存酸素をコントロールし、充填前にもチェックしているとのことでした。また、白ワインでは、溶存酸素だけではなく溶存炭酸ガスの管理もポイントだとのことでした。実際に、香味や口当たりが大きく変わるそうです。
            懇親会でたまたま同じテーブルとなった方より、溶存酸素の測定方法はどうやるのかという話題がでました。もし、将来の「醸造技術者のためのワークショップ」で機会があれば、溶存酸素や容器内酸素を実際に測定し、味わいの変化を体験するというような企画を分析機器メーカーなどへお願いできれば、技術者へ貢献できる企画となるのではないでしょうか。
            
            テイスティングワインデータ(都農ワイン、Small Forest)         

    
 

    第2部 シャトー・ラグランジュ復活への軌跡 経営とワイン造りの視点から

    
             
    
        

            シャトー・ラグランジュ副会長の椎名敬一さんに講演いただき、前オーナーの下で輝きを失っていたシャトーを、サントリーが買収した後、長期視点での経営で、収益を生み出しつつ、ブランド価値を高めたという復活の道筋が示されました。
            
            経営の視点での講演を依頼されたとのことで、ボルドーの格付けシャトーの経常利益率や、ボルドーのワインビジネスの構造、プリムールといったボルドーでのワインビジネスの概略の説明があり、なかでも格付けワイナリーの高収益性には、あらためて驚かされました。
            
            また、ボルドーの地勢を体感できる素晴らしい動画を紹介していただきました。見慣れたボルドーの地図では、海と大河の水に挟まれた地域であることや、起伏などについて、私は全然読み取れていなかったことを思い知らされました。とても興味深い内容でした。
                      

        
                         
                光学式選果機
                              
                         
                選果後の果粒             
        
        ワインの試飲は、講演で説明いただいたワイン造りの変化や、収穫年度ごとの造りの結果がよくわかるような構成でした。
        苦しんだ収穫年のセカンドと、良好な収穫年のセカンド比較から、ヴィンテージ間の比較をしました。
        苦しんだ年には、収穫期にずっと降雨があったので、従来なら、病気の発生を恐れて適熟期より早く収穫するような年だということで、未熟な青臭さを感じるかと思いました。しかし、光学式選果機の導入により、健全果のみを選別できるようになっていたため、雨が続くなかでも、適熟時期に収穫できたとのことで、そのようなニュアンスは全くありませんでした。
        良好な収穫年度のファーストとセカンドの比較による造りの違いを見ました。ファーストではエレガントさが際立ち、一方で、セカンドはまさに今飲み頃といえる状態であり、同じ収穫年度でも全く異なる顔を見せていました。ブレンドの詳細を伺うと、結果として、セカンドのみプティ・ヴェルドをブレンドしたとのことでした。実は、個人的には、セカンドが好みでした。
        さらに、一世代前の造りだった頃の収穫年のファーストと現在の造りのファーストの比較により、造りの変遷により、エレガントさが高まっていることがよくわかりました。
        
        質疑応答でも一つ一つ丁寧に回答くださる椎名さんの姿勢が印象的でした。なかでも費用の効果的な使い方に関する示唆や、長期的に人材育成を行うべきであるとの示唆は、日本ワインの今後の展開を考えるときに重要な示唆をいただいたと感じました。
        
        シャトー・ラグランジュ テイスティングリスト
                  

                      

        
                         
                椎名敬一副会長とマティウ・ボルト社長             
        
        

            Chateau Lagrange
            1983年 サントリー経営参画
            所在地: ボルドーメドック地方サンジュリアン村
            AOC: サンジュリアン
            格付け: グラン・クリュ 3級
            総面積: 157ha
            作付面積: 118ha
            従業員数: 58人