【第4回】 日々、田舎のワイナリーで
日々、田舎のワイナリーで2016年07月20日
甲斐ワイナリー風間 聡一郎
7月。いつもは梅雨を鬱屈した気持ちで過ごすのですが、今年は晴天の日も多くブドウ達も健全に成長しています。もう少しするとヴェレゾンと呼ばれる着色期を迎え、緑一辺倒だった畑にも色が差してきます。
このヴェレゾンの前後は畑での仕事が最も忙しく、誘引、傘掛け、摘芯などに追われに追われ、朝5時から夕方6時まで畑で過ごすのが基本という完全なブラック企業(スタッフは定時で帰ります)。忙しさに酔いながらの仕事ですが、仕事終わりのお酒が最も美味しい季節です。
しかし、ずっと畑にいますのでお話しのネタがありません。ですので、今日はフランスにいた時のお話しをすることにします。
東京農大を卒業後、英語もフランス語も話せないまま単身渡仏。まずは語学学校でフランス語を学びました。ホームステイ先から夜逃げしたり、財布をなくして途方に暮れたり、たくさんの思い出がありますが割愛。そして学びたてのフランス語で、ワイナリーに片端から手紙を書きます。
そして返事があったブルゴーニュのワイナリーへ、収穫と仕込みの時期だけ人を募う家族経営の小さなワイナリーへ住み込みで働かせてもらいました。眼前に広がる広大なピノ・ノワールの畑。あの景色は一生忘れないと思います。
しかし、突然やってきた東洋人が大切な仕事を任されるはずもなく、毎日ひたすら収穫。そして醸造場では掃除と洗浄。必死です。お昼と夕飯の時は辞書を片手に身振り手振りを交えて質問をします。今が熱心でないとは言いませんが、あの頃は確実に熱心でした。
とても有意義な住み込み生活でした。一番勉強になったのは、フランスと同じ栽培の仕方を日本で行ってもダメだということ。土壌も気候も違います。例えばフランスではブドウの樹が人の背丈を越えることはまずありません。ワインはその土地のものですので、やはりその土地に合った栽培方法を見つけるのが良いのではないかと思っています。
きっと今フランスへ留学することができるのなら、当時の何倍も何十倍も勉強になると思います。ただ、甲斐ワイナリーが潰れます。
さて、雨もやんだので畑に戻ります。
著者について
甲斐ワイナリー
風間 聡一郎
伝統を活かしたワイン醸造を行う家族経営の甲斐ワイナリー3代目(酒造業としては7代目)。甲州種やメルロー、バルベーラなど専門品種を中心に個性と品位のあるワイン造りを目指し、日々、畑でワイナリーで作業に励む。時折息抜きにFBでぼやく。1978年生まれ。東京農業大学出身。