メルローワークショップ「原料ぶどう栽培についてパネルディスカッション」

2020年2月17日
フクラシア東京ステーション 会議室H
日本ワイナリー協会 ワークショップ
第1部レポート

メルローワークショップ
「原料ぶどう栽培についてパネルディスカッション」

胎内高原ワイナリー 佐藤 彰彦

【パネリスト】(敬称略)
  • 齋藤 浩
    山梨県ワイン酒造組合長、メルシャンヴィティコール勝沼 代表取締役
  • 大山 弘平
    サントリー登美の丘ワイナリー駐在 全国自社管理畑担当リーダー
  • 石原 大輔
    サッポロ安曇野池田ヴィンヤード 栽培責任者

【ディスカッション内容】

各産地の概要




齋藤:まずはメルローという品種について少し触れていきたいと思う。近年、遺伝子の解析が進み、メルローの親は、父親がカベルネ・フラン、母親はボルドー対岸、シャラント県の農家の軒先に残っていたブドウとされている、マグドゥレーヌ・ノワール・デ・シャラント。非常に早熟なブドウであると聞いている。7月下旬の祭日、それくらいに熟すブドウ。それと、カベルネ・フランは皆さんご承知の通りだと思う。タンニンなどそういったものがしっかりしたブドウ。そのような二つのブドウの性質を合わせ持っているのが見て取れる。色んな品種の中では割合、早熟な系統、これは母親譲りなのだろうと思う。それから酒質がしっかりしているのは父親譲りなのだろうと、そのようなことが近年分かってきている。
本日、我々3名がそれぞれ説明する場所の地質図、いわゆる母岩を表すことになるだろうか。こうして見てみるとサッポロさんの畑は気水成層とあり、昔は海水と淡水が混ざっているような浅い海だったのしょう。このような場所が隆起したり、沈降を繰り返し、やがて安曇野ヴィンヤードの地域になる。
椀子ヴィンヤードは火成岩。火山灰も当然入るであろうと思われます。火山岩みたいなものが積り、それらの風化産物が母岩を成していると思われる。
サントリーさんの岩垂原と我々の桔梗々原、これは奈良井川のずっと上流部から土砂が堆積してどんどんと積った、所謂、堆積岩。三社三様で、先ず母岩が違うということがこの地質図から見られると思う。



もうひとつ、母岩の地質もそうだが人が耕作していくと所謂、農地になっていく。
農研機構のサイトを見れば多分、皆さんが耕作している農地については、土壌を詳しく紹介している。興味のある方は見て頂きたい。先ほどの椀子ヴィンヤード、このサイトを見ると重埴土、いわゆる重粘土。そういう丘の上が、こういった形で構成された栽培地になる。
次に桔梗々原ヴィンヤードだが、これは岩垂原も含む。アロフェン質黒ボク土とあるが、アロフェンというのは火山灰の中のガラス質(キラキラ光る長石)が風化したものを多分に含む所謂、火山灰ということになる。そして表土として存在する黒ボクというのは、ただ火山灰が積ったということではなく、焼畑をしたとか山林が燃えたとか、そういったものが積ると黒ぼくになる。そういう表土がかなり厚い、黒ボク自体は何センチ何十センチ、あとは火山灰がかなり厚く積った土壌ということになる。



そして、安曇野の池田ヴィンヤードは斜面、所在地は山腹に位置します。その周りは森林、山になっているので、その土壌を反映して褐色森林土と、火山灰の影響の少ない(降り積もったものが流れたか)元々の山の土壌が耕作され、畑になった、そのような土壌。
3地域とも土壌はこのようにバリエーションがあります。それが狭い地域の中でも各産地が存在している理由だと思います。

大山:土壌の影響のところなのですが、母岩の上に土壌があってブドウの根域は土壌の影響を受けることが大きい、という理解で良いか。

齋藤:そのような解釈で問題ない。

大山:メルシャンさんは桔梗々原を中心に栽培、片丘の方で、松本に行く道の手前まで(畑を)広げられている。我々と井筒ワインさんは岩垂原と言われる河岸段丘の逆側、対岸側に広げている。本日参加されている五一ワインさん(林農園さん)は柿沢と言われる標高の高いエリアで広げられていて、サッポロさんはかなり北の安曇野というところで栽培されている。塩尻と一口に言ってもサブリージョン、地域が分かれている。

齋藤:引き続き桔梗々原の構造を話したいと思う。今、日本ワインの表示が市町村を区切るようになり、産地といったものを表現するようになり、近年、桔梗ヶ原のエリアも大体これに沿って決められた。まさにそのエリアというのが昔から言われる桔梗ヶ原。奈良井川そして田川の間に、川が運んだ様々なものが堆積し、積った火山灰の一部を川が削り流した、というような構造になっている。表土は黒ボク土などになっている。火山灰が積り、その下というのは、恐らく山が押し出した礫であろう。礫が積った上に火山灰が積り、大地が出来上がったところを川が削っていった。(断面図を見て)始めは火山灰が積り、奈良井川と田川が浸食していき、先ず第一段目に河岸段丘ができあがる。さらにここを浸食して一段、二段となっていく。
桔梗ヶ原の北部、奈良井川の下流地域の中原は、表面に砂礫も見えるような土地。我々の桔梗ヶ原とサントリーさんの岩垂原というのは、この対岸になるが、構造自体は同じようになっている。
平出という地域がある。桔梗ヶ原の南の方。割合、表土の深いところ、ここを一度掘った図がある。黒ぼくの表土、下は火山灰が降り積ったものが固まって、若干粘土質のような、固い部分も出てくる。

大山:どのくらいの深さか。

齋藤:4~5mは掘っている。先ほどの図を思い出して頂くと、この下に礫の層がある。水捌けという意味では、植木鉢の下にゴロ石を置いて土を入れ植物を植える、そうすると非常に水捌けがいい。これと同じような感じだと考えていただきたい。

大山:ブドウの根としては、上の黒ボク土で世界は終わっているのか。

齋藤:もう少し下まであると思われる。日本の中では根を深く生やすことのできる地層ではないか。
それから我々には椀子という畑が上田にあるが、馬の背になったような、両側が低地でここだけが残ったような大地。この下を千曲川が東西に流れている。ここは先ほども言ったように火成岩が非常に多い。それは浅間山があるので、その噴火なのか他の火山のものなのか、そういったものが降り積もり、それが風化していき土壌の主体を成していったということになる。こういう独立峰の丘の上であるから非常に風通しのいい、日照時間も360度遮るものが無いので充分、地形的には恵まれた土地だと思う。



大山:畝の方向というのはどうなっているのか。

齋藤:真ん中の農道がほぼ南北に通っている。この道から左側は傾斜が緩くて南北に畝を造ることができた。ところが、道路から谷に向かっては斜面になっているので、1番に考えたのは水捌けのこと。ここを効率がいいということで南北につくると段々畑になってしまう。大型の機械が入ったときに横の傾斜というのは耕作しにくい。あえて、ここの水は谷側に流れるように。傾斜が緩くなったところは南北に畝を切ってある。効率を考えていく中で、我々が畝の方向を決めたのは耕作のし易さ、それ以前に水捌けの良さを考えて、畝の方向を決めた。

大山:区画によって品種の場所の考え方はあるか。日当たりのよいところは黒(ブドウ)を植えるといったような。

齋藤:20ha分の面積があり、一時期に全て造成できればそれぞれ配分もあった。
最初は現在の半分程度の面積で1期の計画が終わっていた。その後2期、3期と広がっていったので、全体がそのような構想にはなっていない。つまり、各造成計画の中でそれぞれの品種の特性を考慮しながらの植栽となった。例えば一番積算温度の必要なカベルネ・ソーヴィニヨン、次にメルローとシャルドネ、カベルネ・フランがあり、そのように分配。第2期目は当初の計画になかったがシャルドネを植えた。

大山:サントリーの3つの畑の説明に移る。一つ目が山形県上山の奈良崎さん(契約栽培)の畑。ここで山形の気象について少し触れたいと思う。齋藤さんにご説明頂いた塩尻、(気象のデータは松本)と上山、代表的なところとして甲府、そして我々が30年以上お付き合いのある津軽のデータ。山形県の特質すべきところは4月の平均気温が、緯度の割に平均気温で10度、やや高めで積算温度がスタートから稼げているところ。萌芽のタイミングも早ければ4月の下旬から始まる。(2009~2019年の平均になるが)、7月の、おそらく台風の影響だと思いますが、7・8月に降水量が増えてしまう。ヴェレゾンの時期にどうしても雨が多くなるので、出来上がりのワインが、タンニンがすごく強いワインというよりは、少し甘みを帯びている、柔らかい輪郭のものに仕上がる傾向にあると思っている。その代わり秋に入り収穫期になると、やや雨の量は少なくなる。10月に入るとぐっと気温が下がる(最低気温も)ので、成熟の伸びもかなり進んでくる。







今の地域のところで、ある指標を用いて示している。HIというのは、この地域でどのくらい成熟のポテンシャルがあるか、糖度がどのくらい上がるか。4~9月までの積算温度の累積になる。CIは9月の最低気温がどのくらい下がるのか、主にブドウができてヴェレゾンに入った後に、二次代謝系、アロマであるとか他の味わいの成分だとか、それがどこまで増えるポテンシャルがあるかの一つの指標になる。山形の上山と長野の松本を比べると、9月の最低気温は上山の方が高い。ヴェレゾンに入ってからの成熟については松本、塩尻の方がぐっと気温が深くなるので、着色の伸びが増える。
山形県の日照量はやや少なくて、生育間が1100(時間)くらい。青森県でも1200くらいのところ、塩尻は1200、甲府も1200を超えてくるということで、日照についてやや不利な条件がある。これを山形県がどのようにカバーしているのかというと、萌芽のタイミングが早いこと、収穫までの生育期間をかなり長い時間とることで積算をカバーしている。いかに最後収穫を遅らせられるかというところがこの地域での良いワインを造るうえで大事になってくる。
奈良崎さんはX字、所謂自然系のものを昔からされている。(徐々に一文字短梢に切り替えている。)



日照時間でやや不利があるということで、除葉のタイミング、強度などを園主さんとディスカッションして決めている。どのタイミングで除葉して日光を当て、メルローの青臭さを排除していくかに力点を置いて、ブドウ栽培をして頂いている。
夏場は我々も行く回数が増える。確認と同時に、他の果樹の栽培もされているので、それらの管理と重ならないような、現実的な解をどのように見出せるかが毎年の議論のポイントになっている。9月の天気も良いのである程度病気は乗り切れる。
岩垂原のブドウ栽培は、2016年に初めての植え付け(メルロー中心)をし、4年目の去年に収穫できるようになった。面積は3ha、仕立てはダブルのギィヨ。桔梗ヶ原にも農家さんから引き継いだ成園に補植という形で増やしている。



比べるとやや岩垂原の方が成長に時間がかかる。もうひとつ、山本さんが(岩垂原で)栽培しているブドウを購入している。サントリーのフラグシップのワイン(塩尻)で岩垂原メルローがあるが、山本さんのブドウと、今後少しずつ我々のブドウも入っていくると考えている。山本さんの畑は一文字短梢で、樹間も10mくらい。垣根が良いのか棚が良いのかではなく、いかにそこのブドウの状態に合っている仕立てになっているかどうかが大事。園内が非常に明るくて余計な葉が取り除かれている。風通しも良く病気にもなりにくい圃場。
私の中の意見として、日本の中でいい畑というのは風がきちんと通っていて、湿度が溜まりにくいところ。これはひとつの指標になる。去年、椀子ヴィンヤードに訪れた際、帽子が飛ばされた。このような場所なら収穫を遅らせることができ、病気にもなりにくいだろうという印象を受けた。
房の周りに葉がない状態を山本さんはつくり上げている。除葉については房のうえの第3・第4の葉を取り除いて、薬剤がきっちりかかるような状況にしている。この時期の薬剤散布は全方位的に散布するのではなく、房を狙って撒いている。
房の大きさは15cmより小さいくらい、肩を落として形成している。最終的な収穫量も気にしながらやりとりしている。
岩垂原の土壌を掘ってみると1~2mくらいのところから、礫というか丸みを帯びた石が出てくる。岩垂原といわれる所以がここにあると思っている。

石原:長野県池田町にあるサッポロ安曇野池田ヴィンヤードの立地は高瀬川の東にあり、南西向きの斜面、向かいには北アルプスの山々が連なっている。2009年に開園し、樹齢も9~10年目の畑になる。約12.6haの面積の内、約3.2haでメルローを栽培。標高は約560~630mに位置している。最低気温が20度を切り、風通しも良く夜温も下がりやすい。ブドウの成熟も進みやすく、酸もしっかり残るという特徴がある。北アルプスの方からこちら側に川が氾濫し、北アルプス由来の土砂が流れ、堆積してできたのがこの土壌と考えている。



砂と粘土が適度に混じり合っている(砂壌土)。礫も多く、畑を掘ると石が出てくる。8~2%の傾斜がついていて、非常に水分ストレスもかかりやすい。水捌けが良い土地の条件となっている。
メルローの仕立ては、ギィヨドゥーブル。ブドウの実が小粒。
主な取り組みとして、毎年施肥をしている。ひとつは堆肥、もうひとつは色々な肥料。毎年土壌分析を実施、様子を見ながら行う。
病気対策として除葉をしっかりする。取りすぎは良くないが、房の周りはしっかりと取り除く。一番は風通しをよくすること。
同じく長野県内にある古里ぶどう園。長野市の東の端、千曲川の支流である浅川の目の前に位置している。1975年に開園、面積は約3ha、標高は約340m、傾斜はなく平地の畑。こちらの土壌も砂壌土で、水捌けが良い。
栽培方法は安曇野池田と同じく、ギィヨドゥーブルの仕立て。
管理方法は除葉をしっかりする、グレープガードの取り付けもきっちり行うこと。房づくり、収量制限の一種としてブドウの肩周りの切除も実施。樹齢は約14~19年。



畑の環境について


齋藤:桔梗ヶ原は土の性質からして、火山灰なので水捌けも良いが水持ちも良い。極端な水分ストレスはかからないという印象。
椀子の方は重粘土。そのため根圏が発達しない。粘土だから水持ちは良いが、根圏も当然狭い。水分ストレスは強くかかる。酒質という観点から見ると桔梗ヶ原の方が穏やか。
2000年以降、我々が目指したフィネス&エレガンスという標語があり、どちらかというとそちらに近いようなスタイル。一方、水分ストレスがかかる椀子の方はもう少しタニックで、若干アグレッシブ。旧大陸と新大陸の味わいの違いのような。同じ長野の中でも、土壌・気象条件の違いで、特徴的な二地域になっていると思う。

大山:岩垂原は桔梗ヶ原にかなり似ているが、苗木の生育が遅いというところを見ると、礫の影響を受けている。そのため、岩垂原の方が若干成熟は早く、収穫も早くなるという印象。山形は長野とは大きく違っていて、夏場に雨が降る影響を受けている。この奈良崎さんの畑が山間の標高約400mで、傾斜が15~16%ある斜面、雨が降っても大部分が流れる。水分が多い場所だが、立地という意味合いで影響が小さくなって、ワインとしては凝縮感が出ると認識している。

石原:土の影響があると思っており、安曇野、池田は水分ストレスが掛かりやすい。タンニンが強めで凝縮感があるようなぶどうが採れて、ワインもそういったものが表れている。古里ブドウ園の方は、平地ということもあり、水分ストレスが少なく、ワインも柔らかい感じに仕上がっている。気象の方は、メルローは気温の変化に対して色などの影響は比較的少ない。雨が多い年は病気の影響は受けやすいと考えている。

大山:塩尻は9月10月が(甲府は多いですけど)山形と比べると雨が多くなっているので、生育後半にphが高くなった状態でいかに収穫まで逃げ切れるかというか、この雨に対してどのような対策をとるか、最後遅採みできるかポイントになると思います。

植栽間隔について


大山:2016年に植え付けたところは、株間は最初1.0m、その後様子を見ながら今1.5mにしている。畝間は2.5mスピードスプレーヤーが無理なく通れるよう、将来的にグレープガードを付けても邪魔にならないような距離。

齋藤:畝間は2.5m、スピードスプレーヤーやトラクターの通れる距離。株間は1.0m、約4000本/haです。ギィヨドーブル。どうしても1.5mに開くと結果母枝が若干長くなるので芽が飛ぶところがでてくる。それを防ぐために結果母枝を少し短くしているということで1.0mのギィヨドーブルにしている。

石原:株間は1.5m、畝間は2.5m。メルローは樹勢でいうと強い品種ではないと思っていて、あまり長くすると芽飛びする印象がある。各樹の様子を見ながら剪定を微妙に調整しているが基本的に1.5m位であれば長すぎることはないと思う。

大山:芽傷は入れているか。

石原:入れていない。年によっては少し飛ぶ。

仕立てについて


大山:自園はギィヨドーブル、vsp。山本さん(契約農家さん)は一文字短梢。山形上山の畑は一文字短梢。以前は自然整技だったが、難しく大変ということで息子の代で変えてきている。

齋藤:塩尻はギィヨドーブル、vsp。椀子はコルドンに移行途中。理由は広大な面積のため作業の軽減、萌芽は一斉に揃いやすく生育は均一になる。塩尻とはそういった意味で若干異なる。

新梢の長さについて


齋藤:(新梢の長さ)÷(畝間)=0.6~1.0の範囲と言うのが教科書に載っている。2.5mの畝間をとると新梢の長さは約1m60cmの場合、0.64とか0.65になる。それより長くとるか、畑の形状や生育にもよるが、そのようにしている。

大山:第一架線の高さはどのくらいか。

齋藤:60~70cm。

大山:その長さプラスか。

齋藤:新梢の長さだけである。夏季剪定、摘芯の位置で調整している。

石原:ギィヨドーブル、vsp。理由は樹勢のコントロールがしやすい。病害の蓄積とか毎年結果母枝を更新したほうが良い結果が得られるのではないかと思っている。作業効率を考えると(コルドン整枝も)いいのかと感じた。

大山:作業に入られる人のスキルも熟練の方が少なくなってきている。いかに一律な管理ができるかという意味においては短梢剪定の管理が現実的ではある。

摘芯(夏季剪定)について


大山:できるだけ摘芯のタイミングを遅らせたい。早めに切ってしまうことでより強くさせてしまうことを誘発してしまうので、できれば7月後半、中旬から後半に入ったところで粘って、そのとき畑としては、見てくれは良くないが、我慢をして最後の一回で終わらせたいという意識の上でやっている。

齋藤:椀子は年によって違うが、雨の多い年は4回か3回くらいではないか。

石原:なるべく7月の後半からをイメージしている。池田圃場のほうは、そもそも樹の生育が弱いため、1回ないしは2回位。古里ぶどう園は2回位実施している。

大山:副梢の管理は、1回切ったあとに出てくる副梢に対して、我々は2枚残して切っている。

石原:いまのところ処理はしてない。(樹勢とのかねあいになるが)副梢の方が光合成能力は高いという考えのもとになるべく触らないようにしている。

齋藤:我々のところもサッポロさんと同じ管理をしている。

除葉について


大山:7月の上旬から中旬位に、メルローのメトキシピラジンを感じさせる青臭さは、日を当てることで無くすことができると思っているので、このあたりのタイミングで除葉をして日に当てるのと、取った後の薬剤がしっかりかかることで第3節、4節を取っている。今、考えていることは、除葉することで傘なりグレープガードをしないところは、雨のあたりやすさにつながってしまうので、葉を残しながらどんなふうに除葉すれば余計な傘をせず、自然の傘で、彼ら自身の葉で守れないか、例えば誘引の仕方や仕立てのやり方を考えないといけないと思っている。

齋藤:桔梗ヶ原では第一果房まで除葉、大山さんが言っていたような雨を考慮にいれた。一方、椀子は第二果房までしっかり除葉。当然二つの地域の気象の違いに応じた作業を行っている。

大山:椀子の方が、雨が少ないからか。

齋藤:少ないのと、最初から椀子のほうが作業し始めたので、その位した方が青さを克服できるのではないかと、当然塩尻では第一果房まで、違う品種はしないとか地域の状況によって何段かの方法でやっている。

石原:品種によってやり方を変えている。安曇野、池田では7月に病気の予防を第一に考えている。しっかり第二果房まで除葉。古里ぶどう園では、病気ももちろんだが受光性改善ということで、第二果房までしっかり取っている。

齋藤:葉を取る時期というのは、たぶん花が咲いた後、実止まりが決定したらその時期にするのが効果的なようだ。ヴェレゾンの時に取ってもあまり効果がないようで、せいぜい薬剤が付着するくらいで、早期除葉のほうが効果はいいと思う。

大山:そのときの果実の状態はパチンコ玉くらいか。

齋藤:小豆粒くらいの時期。もしくは実止まりが決定する時期で小豆粒よりもっと早いかもしれない。一説にはメトキシピラジンは元葉に多いようだ。果実に移行するかわからないが、新梢の部位の中で一番元葉に多く含まれている。移行していないかもしれないが、しているかもしれない。少なくとも効果はあるのではないかと思っている。

収量制限について


大山:まだ若木なので、10a当たりを意識するというよりは、新梢が弱いものは1房、強いというか小指太さのものは2房つけている。その後着色とか糖度が低いものがあれば落としていく。他の畑も同じ状況があれば落としていく。2房以上は付けないようにしている。

齋藤:10a当たり800~900kgくらい。品質と量は関係があるのと、垣根栽培の場合、800kg位をひとつの標準的な基準にしている。

石原:安曇野、池田については、いまのところ実施していない。収量が多くないので必要がない。古里ぶどう園については、受光性を気にして、房の肩を落とすという処理をしている。

収穫日の決め方について


大山:糖度、酸度、ph、1週間に1度見ながら管理をしている。病気の状態と最後は種の官能というか種の成熟で収穫日を決めている。

齋藤:いつ収穫するかで出来上がるワインのスタイルが決定すると思う。フェノールの成熟に重きをおいている。数値を追いながら、栽培管理をする人間が畑に出て、ブドウを食べる。数値を背景に何年も訓練を積むと、あえて分析表を心配しなくても、食味で、いつ収穫するかポイントがしっかりと把握できるようになってくる。その訓練をしたかどうかで決まるが、最終的にフェノールの成熟に重きをおいている。

石原:糖度、酸度、ph、で決めている。

収穫期の天候、病気のせめぎ合いについて


齋藤:一番目指したいのはフランスでマチュリテ・エノロジックという言葉があるが、ワイン醸造の摘期を最終的に追い求めたい。それにはふたつクリアしなければいけないことがある。ひとつは病気にかかっていない健全なブドウでなければならない。もうひとつは、適熟という、ワインにするために適った収穫時期、そのふたつを満足したい。なるべくなら気象に左右されずに、また、人手だったり設備の空き具合だったり、これらが優先事項となるのではなく、純粋に醸造学的に素敵なワインになる要素の適った収穫時期、そこがせめぎ合いだと思う。そこまでいかず、仕方なく収穫せざるを得ないこともあるが、最後までそういう努力することが大切。

肥料について


大山:葉面散布含めてあまりやっていない。これから意識していかなければいけないのが土壌中のC/N比。ぶどうで取られた成分をどのように補うか。剪定枝をすき込むのか、下草をある程度伸ばして刈り、すき込むのかを考えている。今後20年30年40年と、どういうサイクルで行えば上手く行くのかを見出さないといけないと思っている。自然な状態で回転させるルールをつくりたいと思っている。

齋藤:施肥はほとんどしない。弱っている樹があればするが、基本的にはしなくても健全な生育がなされている。その代わり例えばマグネシウムであれば開花期前後、カルシウムであればヴェレゾン前後、それぞれブドウの樹をみながら葉面散布している。

石原:安曇野、池田については、堆肥を投入している。理由のひとつは物理性の改善。土を柔らかくしたいので入れている。もうひとつは微量要素の補給という意味合いで入れている。生育と土壌分析を見ながら、足りない成分を追肥、礼肥で補っている。古里ぶどう園については特にしていない。

大山:堆肥はどういうタイプか

石原:植物由来の堆肥。

大山:FANは気にしているか。果汁で出てきたときのFANが低いのか高いのかで土壌にアプローチはしているか。

石原:基本的に赤ワイン品種は窒素分が多くないほうがいいのかと思う。特に積極的に窒素はいれていない。

齋藤:赤ワイン品種には考えていない。白については葉面散布として、チオールが3倍になった報告があるので、白については考えている。

メルローの病害について


大山:晩腐、灰カビ病が出る。対策としては、3つある。ひとつは休眠期散布をどの薬剤をどのように散布するのか。その年の初めの病気の菌体数をいかに下げるか、確率を下げるか。2つ目は、開花して、(ブドウ内臓というか)柱頭が出てくる瞬間にどういう薬剤をどういうタイミングで判断して散布するか。3つ目は、開花のタイミングで物理的に判断して雨の影響を防ぐかという点。もちろん経済的な面もあるので全てではないが、この3つの判断をどうするかが大事と思っている。

齋藤:桔梗ヶ原では根頭がんしゅ病と遅晩腐病、椀子については晩腐病。べと病などはほどほど防除できている。根頭がんしゅ病については徒長ぎみに育てないこと。晩腐病については発生サイクル、5月の中旬下旬、6月の中旬の、所謂幼果期における防除管理の徹底をしている。銅剤については7月の下旬まで散布する。それ以降はしない。

石原:銅剤を8月に使わない理由は。

齋藤:香りのこともある。そしてなんとか防げていた。どちらかというと銅剤は殺菌よりも防菌の役目が多いため、そのころまでに主眼をおいたほうが良いのかと思う。

石原:晩腐病が一番多い。べと病は防げている。最近確証はないが晩腐病に似ているが苦腐(にがくされ)病というのが出ているようである。晩腐病はオレンジの粉だが、苦腐病は黒い症状が少し出てきた。防除は5月・6月を重点的に、あと定期的にするということ。房の周りの風通しをよくすること。あと耕種的防除を、もちろん巻き蔓取りをしっかりするということ。あと一部試験的にレインカットを導入した。レインカットは資材費用とか労力も掛かるので慎重に検討したい。

大山:特効薬は耐性菌がでてきてしまう。そのため特効薬がないのでマンゼブやキャプタン剤をどのようにどのタイミングで組み合わせるのかが、防除暦を作るうえで大事。キャプタン剤は今年から3回まで認められた。

齋藤:近年、遅晩腐病は多発している。1992年頃は桔梗ヶ原のメルローの収穫期は10月10日から始まっていた。今は9月の下旬から始まっている。雨の降り方は当時とそんなに変わっていない。生育ステージが変わってきて(早くなっている)いるのではないか。(表を参照)昔は雨をやり過ごした後に収穫していたのではないか。他の地域をみると山梨ではその昔、30~40年前にメルローとカベルネが導入されたが、カベルネはわりかし残った。メルローは一時期なくなったようだ。カベルネは秋雨をやり過ごしてから収穫できて、メルローはちょうどその頃収穫期だったのではないか。温暖化の影響はこういうことからも出てきているのかと思う。

大山:長野県もそういう状況に入りつつあるのか。

齋藤:そのような気がする。

新しく取り組みたいこと、または目指すもの。


大山:持続可能、無理のない栽培サイクルを(メルローに限ったことではないが)意識して考えていきたい。将来的に薬剤をどうしたら少なくしていけるかとか、最適なことはなにか、50年後塩尻でメルローは植えられているのかということも考えていきたい。

齋藤:2008年の9月21日の酒販ニュースにデニスギャスティン氏と対談した。そのときギャスティン氏はこんなことを言っていた。各国のシグナチャー品種について、例えばオーストラリアではシラーをシラーズと名前を変えて、その国を代表する品種とした。
同じようにアルゼンチンではマルベックがシグナチャー品種となっている。ワインレポートのアジア部分を執筆するとき、アジアのワインの中でも特に日本のメルローは何かが違う、他の地域の担当とテイスティングをしても、同じ意見が聞かれるという。日本のシグナチャー品種といえば甲州という考えもあるが、世界の中で日本という産地を主張するためにはヴィニフェラの中で主張のできる品種をもった方がいいと思う。そのためには各産地で広がっているのはメルローと思う。その中でもいくつかは世界的にも評価されるまでになってきている。日本のシグニチャー品種をメルローに設定してもいいのではないか。これは我々にとって嬉しいエールと思う。
皆さん、メルローが日本のシグナチャー品種と言われるように頑張りましょう。

石原:しっかりと健全にブドウを育てたいということ。そのためには栽培管理方法などが、台木なのかクローンなのか、いろんな切り口があるが、短期の視点ではなく長い目を見て、しっかりと健全に育てていけるような取り組みをしていきたい。
【感想】
今回、「メルロー、原料ぶどう栽培について」、大手3社の皆さんが実践されている、生の声を聴講できる貴重な機会に参加させて頂き嬉しく思っております。
上記のディスカッションで、実際の具体的な作業内容、注意すること、味わいなどの他に、苦悩、哲学、精神を感じられた有意義な時間でした。詳細にお話くださり感謝申し上げます。