醸造家のボルドー留学記 Vol.1
産地を知る2021年01月19日
フランス ボルドー大学
ISVV 留学記
筆者:多田 淳
所属:サッポロビール株式会社 グランポレール勝沼ワイナリー
(はじめに)
皆さん初めまして。サッポロビール株式会社グランポレール勝沼ワイナリーの多田淳と申します。
昨年は全世界激動の1年でしたが、そんな中、私はフランス ボルドー大学の Institut des Sciences de la Vigne et du Vin (ISVV: ぶどう・ワイン科学研究所)でDiplôme National d'Œnologue (DNO: フランス国家認定 ワイン醸造士)の課程を修了し、8月に帰国しました。今回、このような場に私の経験を連載することで、海外留学を考えられている方々のご参考になればと思っております。1、2回目は、私が籍を置いていた課程について紹介いたします。
フランスの国立研究機関であるボルドー大学 ISVVでは、修士~博士課程に加えて、ワインテイスティングに特化した1年間の社会人向け公開講座であるDUADなど、いくつかの学位や資格を修得する事ができます。その中で、私は国家認定資格であるワイン醸造士を修得する課程 (DNO)で学びました。ワイン醸造士はフランス語でŒnologue (エノログ)と呼ばれます。科学的知識を基に、ワイン専門分野の職務を担う技術者を養成するのが本課程の目的となります。期間は2年間で、留年も+1年までは認められています。フランスではボルドー、ディジョン、モンペリエ、ランス、トゥールーズにある5つの大学(機関)で修得でき、卒業生はワイン醸造家、ぶどう栽培管理者、ぶどうワイン分析・解析者、研究者、コンサルタント等、様々な職務に就きます。
ぶどう・ワイン科学研究所の正面入り口
私は2017年夏に渡仏し、フランス語を勉強しながら翌年のDNO出願に向けて準備を進めました。5大学の中でもボルドーはフランス国内外から人気で、定員は毎年60人、倍率は約7倍との事でした。外国人枠についての正式な発表はありませんが、ここ数年は10人程度のようです。入学するには、まずこの関門を突破する必要があります。
出願条件として生命科学、化学、農業生化学等分野の学士号もしくは同等の教育課程(フランス職業学士号他)を修了している必要があります。外国人はこれに加え、フランス語能力を資格(DELF及びTCF)で示す必要があります。選抜は出願時に提出したフランス語の論文(動機書)と、これまでの実務経験や学業によって行われました (2018年時点の状況)。
フランス語はこれまでの人生でほぼ触れる機会が無く、30代後半での新しい言語の習得はなかなか挑戦的な課題でした。ただ、いざ始めてみると目標が明確であったことや、その先にあるフランス文化や歴史を学ぶことにも繋がり、私はそこまで苦に思いませんでした。できるだけ楽しむことと、とにかく覚えたことはすぐに使ってみることが言語習得のポイントだったように思います。現地ボルドーにある語学学校では、授業以外にも様々な活動があり、こういったものへの参加も語学上達に効果的であったと感じています。
語学学校主催チーズ試食会の様子
生徒の選抜担当である教授によれば「授業を理解し、ついていけるか」が最も重要なポイントであり、やはり外国人はフランス語能力をしっかり見るとのことでした。入学の際の資格については最低でもDELF B2レベルが望ましいとの事です。B2は、フランスで外国人が学士課程に進むために一般的に必須とされているレベルで、私も出願前までにはDELF B2を取得しました。どれくらいの時間がかかるは人によって異なると思いますが、語学で苦しむ同僚外国人を見てきた身としては、入学前にはこのレベルに到達していることをおすすめします。
次回は、入学してからの全般的なお話をしたいと思います。
(筆者略歴)
多田 淳
サッポロビール株式会社グランポレール勝沼ワイナリー
東京理科大学大学院 基礎工学研究科(生物工学専攻)修士課程卒、サッポロビール入社。
5年間ビール醸造の経験を積んだ後、岡山ワイナリーに4年間、主に醸造責任者として勤務。
2017年よりフランスに留学、ボルドー大学 ISVVにてDNO(Diplôme National d'Œnologue)を取得し2020年帰国。
現在、同社グランポレール勝沼ワイナリー在職。