醸造家のボルドー留学記 Vol.2

醸造家のボルドー留学記 Vol.2
フランス ボルドー大学
ISVV 留学記
 
留学期間:2017年夏~2020年8月
筆者:多田 淳
所属:サッポロビール株式会社 グランポレール勝沼ワイナリー
 
(はじめに)
 皆さん初めまして。サッポロビール株式会社グランポレール勝沼ワイナリーの多田淳と申します。
 昨年は全世界激動の1年でしたが、そんな中、私はフランス ボルドー大学の Institut des Sciences de la Vigne et du Vin (ISVV: ぶどう・ワイン科学研究所)でDiplôme National d'Œnologue (DNO: フランス国家認定 ワイン醸造士)の課程を修了し、8月に帰国しました。今回、このような場に私の経験を連載することで、海外留学を考えられている方々のご参考になればと思っております。1、2回目は、私が籍を置いていた課程について紹介いたします。
 
 今回は、ボルドー大学DNO課程入学後のお話をいたします。在籍中は学びや発見が多く、刺激にあふれる充実した日々を過ごしました。一方で様々な苦労もありました。。
 学校によると、これまでボルドー大学で国家免状DNOを取得した日本人は私を含めて9人との事でした。この人数からも分かる通り、やはり生半可な覚悟では取れないという事を、在籍中は強く実感しました。
 授業は全てフランス語で、講義、実習、演習という形で行われます。科目はぶどうづくりやワインづくりに直接関係する科学的及び技術的なものに加え、法律、マーケティング、歴史等、様々なものがありました。もちろんテイスティングの授業もあり、ワインの香味成分と栽培及び醸造工程の繋がりを中心に学びました。
 学期末には科目ごとの試験(実技及び筆記)があり、卒業するためには全ての単位を取得しなくてはいけません。この試験が難しく、複数科目の追試をうける学生も少なくありませんでした。

          
                      テイスティング授業の様子
 
 授業のスケジュールは、基本的に平日の朝から晩(8:30~18:00)まで埋まっていたため、夜や土日の時間を、日々課されるレポートの作成や予習復習に割きました。家でワインテイスティングをすると、もっとしっかり飲み込みたい、でも、飲むと他の勉強がおろそかに、、、そんな葛藤との闘いの日々でもありました。これはどんな分野であれ、ワインを勉強されている方々に共通した悩みではないでしょうか。
 
                      1年目時間割の例(水、金曜日は実習)
 
 DNO課程も、国の祝日に合わせて長期休暇がありました。ただし、休み後は試験又は論文の提出期限になるため、なかなか羽を伸ばす事はできませんでした。このような学生生活を送るにあたり、私は家族に帯同してもらい、日々の息抜きや身の回りのことについて支援してもらっていました。DNOに限った事ではないですが、ストレス多き長期海外留学では、心のよりどころを持つ大切さを身に染みて感じました。
              
                  週末、家族とサンテミリオンのぶどう畑へ
 
 また、本課程の特色のひとつとてして、現場研修が義務付けられています。具体的には1年目に3週間、2年目に3か月以上のワイン醸造に関する現場研修が必要で、この研修先も、学生自ら見つける必要がありました。フランスではワインに限らず、様々な教育の場でこのような研修を義務付けていて、学生にとって就職前に社会を知る非常によい制度だと感じています。
 
 次回は、シャトー研修の経験についてご紹介いたします。
 
   

(筆者略歴)
多田 淳
サッポロビール株式会社グランポレール勝沼ワイナリー
 
東京理科大学大学院 基礎工学研究科(生物工学専攻)修士課程卒、サッポロビール入社。
5年間ビール醸造の経験を積んだ後、岡山ワイナリーに4年間、主に醸造責任者として勤務。
2017年よりフランスに留学、ボルドー大学 ISVVにてDNO(Diplôme National d'Œnologue)を取得し2020年帰国。
現在、同社グランポレール勝沼ワイナリー在職。