醸造家のボルドー留学記 Vol.4

醸造家のボルドー留学記 vol.4
フランス ボルドー大学ISVV 留学記
 
留学期間:2017年夏~2020年8月
多田 淳様
所属:サッポロビール株式会社 グランポレール勝沼ワイナリー

 皆さんこんにちは、サッポロビールグランポレール勝沼ワイナリーの多田です。今回は引き続き、ボルドー留学中の長期研修の様子についてお伝えいたします。
 私が2019年に長期研修を行ったDomaines Denis Dubourdieu (ドメーヌ・ドゥニ・ドュブルデュー)はDubourdieu家によって経営されている会社で、その傘下に複数のシャトーを所有しています。オーナーであった故Denis Dubourdieu氏は、ボルドー大学の教授としてワインの品質に関する研究を通じて多くの功績を残されました。特に白ワインの香り等に関する研究は有名で、これら研究に基づいた技術は全世界で使用されています。
 
 本ドメーヌは、主なシャトーとしてChâteau Doisy Daëne(ソーテルヌ)、Château Reynon(プルミエ・コート・ド・ボルドー)、Clos Floridene(グラーブ)を所有しており、これらシャトーの畑全ての合計は約120 haありました。家からやや遠かった事と、早朝からの作業も多くあったため、研修期間中はChâteau Doisy Daëne施設内にある寮に泊まっていました。ここを拠点として全てのシャトー及び畑を行き来して業務にあたっていたため、合計すると結構な距離を研修中は運転していたかと思います。
 研修生は私の他DNO課程から2人、その他ワイン教育機関から2人おり、計5人で寮生活を送りながら収穫時期の苦楽を共にしました。週末になるとラクレットを皆で囲み、各々が持ち寄ったワインを飲み比べする等、現地の食文化に触れるとても良い経験ができました。
 
研修生でラクレットを囲む様子
 
 7月からの研修であったため、まずは畑での業務からスタートしました。この時期は主に徐葉作業が機械及び手作業によって進められていて、研修生は各区画の進捗管理を任されました。
 高い気温での徐葉作業は果粒が物理的な刺激によって傷みやすいため、基本朝6時に作業を開始し14時くらいまでには終了していました。温度計を常に監視し、ぶどうの房周辺が31℃を超える場合は各々のチームに作業を中止するよう連絡するのも研修生の仕事でした。
 
除葉後の様子(左図)と房周辺に設置した温度計(右図)
 
 このほかにも、ぶどう畑各区画で枯れた樹の数や、ぶどうの房数のカウント、ぶどうの分析(主に房及び果粒の重さ、比重、総酸度、pH)もまかされました。
 
畑でのカウント作業(左図)とぶどう分析部屋(右図)の様子
 
 ボルドーはここ数年、平均気温が徐々に上がってきており私が研修していた年もCanicule(猛暑)のため、畑での作業がとてもつらかった事を良く覚えています。この影響でぶどうが成熟するスピードが速くなってきており、多くのシャトーが白品種の酸の低下、赤品種では糖濃度が高くなりすぎる事によるアルコール度数の上昇を心配していました。研修先では、赤品種については「雨が降っている日を狙って収穫しようか」という冗談が出るくらいでした。
 このような気温変化を受け、AOP Bordeaux及びAOP Bordeaux Supérieurで近年新たな補助ぶどう品種が複数承認されたのは記憶に新しい事と思います。辛口白用のAlvarinho(スペイン及びポルトガル主要品種)、Liliorila(ボルドー開発品種)の2種、赤用のArinarnoa (ボルドー開発品種)、Castets(フランス南西部主要品種)、Marselan (モンペリエ開発品種)、 Touriga nacional(ポルトガル主要品種)の4種です。
 大学ではこのような温暖化に向けた新たな品種等の研究が、主に栽培関連のホットなトピックとして紹介される事が多かった印象でした。

 次回は醸造研修についてレポートします。
 
広大なぶどう畑の中を車で移動する様子