【北陸編・第3回】能登ワイン
ワイナリー紀行【北陸編】2017年07月25日
人差し指をかぎ型に曲げた形の能登半島、その曲げた指関節の内側、穴水町のなだらかな里山に能登ワインの畑とワイナリーがある。能登の名に白波の立つ海辺にたたずむワイナリーを思い浮かべてしまうが、最も近い七尾湾の海辺まで2キロメートルはある。
実は能登ワインの海は畑の中にある。穏やかな内海の七尾湾では牡蠣の養殖が盛んで、夏の天然岩ガキでも知られる。その牡蠣殻をブドウ畑にたっぷりと撒き土壌に漉きこんでいる。能登半島の土は鉄分を多く含む粘土質の赤土。牡蠣殻は上質なブドウを育むのに必須の土壌の排水性を高めミネラル分を土に与える。ここでは海の恵みが山の恵みを育む。
穴見町はワイナリーで町起こしを考えたが、ワインブドウ栽培も醸造も全く未知の世界。そこで小樽の北海道ワインに協力を仰いだ。北海道ワインはブドウ生産と技術協力を快諾し2000年、ブドウ栽培に特化した能登ヴィンヤードをこの地に創業、今やそのブドウ畑は6ヘクタールに及ぶ。06年、地元JAや企業が出資するワイナリー「能登ワイン」が創業。能登穴見町産ブドウによるワイン造りが始まった。
醸造を担うのは地元JAから派遣された職員。技術を持ったプロを外部から雇うことはせず、地元の素人集団としてスタート、それゆえ技巧に走らず基本に忠実に丁寧なワイン造りを今も心掛けている。ワイン愛好家をうならせるワインではないが、日々の食卓で楽しめるワインを造る。観光客が試飲し喜んで買って帰るワインでもある。例外は少量生産のトップ・レンジ「クオネス」。ヤマソーヴィニオンから造る赤のクオネスはキリリと引き締まりタンニンも十分、ヤマソーヴィニヨン特有の野性味は程よく抑えられ、飲み応え十分なワイン。
今も能登ワインの原料の主力は能登ヴィンヤードのブドウだが、能登ワインの自社畑もでき、町内でワイン用ブドウ栽培を始める農家もでてきた。広々とした垣根式の自社畑はワイナリーから望める。この畑で育まれたシャルドネは、夏のミルキーなコクのある岩ガキ、冬場の牡蠣小屋で焼いた牡蠣にぴったりのワインだ。
能登半島は日本の原風景を色濃く残し世界農業遺産に指定されている。その中にヨーロッパ生まれの垣根式ブドウ畑とワイナリーがしっくりと溶け込んでいる。
紹介したワイナリー
石川県鳳珠郡穴水町旭ケ丘り5-1