【ワイナリーを知る・第2回】サントリー塩尻ワイナリー 80年目の変身 塩尻の個性 ―土壌、品種― を主張するワイナリーへ
ワイナリーを知る2017年09月15日
サントリーの前身、鳥井商店は1907年に「赤玉ポートワイン」(1973年より赤玉スイートワイン)を発売、1936年には「赤玉」の原料としてコンコードぶどうを購入していた塩尻の地に醸造所を開設した。同年に山梨の茅ケ岳山麓に開かれた「登美農園」を買収して現在の登美の丘ワイナリーを築き、やがて登美がサントリーのワイン生産の中心となった。
塩尻ワイナリーは、長らく登美の丘ワイナリーの補完的な役割を担ってきたが、2012年から1年かけて醸造所内の設備を刷新、15年に篠田健太郎さんが所長に就任、塩尻のテロワールを伝えるワイナリーに生まれ変わった。
6月から10月の間、塩尻市の月間最低気温は札幌のそれを下回る月が多く、ブドウの成熟期である10月の最低気温はときには0度まで下がることもあるが、最高気温は高く、昼夜の寒暖差が大きい。塩尻は、ブドウが酸を保ちながらポリフェノールの含有量を増やし赤品種の色づきがよくなるというブドウ栽培に適した条件に恵まれている。それ故サントリー塩尻ではメルロとマスカット・ベーリーAの赤品種に力を入れている。(塩尻地区の気象条件 出展:気象庁ホームページ)
塩尻のなかでも注目したのは奈良井川左岸の高台「岩垂(いわだれ)」地区。著名な桔梗ヶ原が位置する奈良井川右岸はシルト(砂と粘土の間の大きさの粒子の土)土壌でその下に礫質がある。対して岩垂原はシルトに礫質が混じった土壌で、右岸より保水性が低く乾燥しやすい。これはブドウが小粒になることを示す。
果実味とタンニンが凝縮したフラグシップワイン「メルロ岩垂原」となるのは、岩垂地区に約10軒ある契約栽培農家の内、山本博保さんの畑。特に礫を多く含む畑だ。岩垂地区のメルロの収穫量は他地区より低めだが山本さんの畑はさらに収穫量を抑えている。山本さんの畑は春に芽吹いた新梢が等間隔に均質の太さに伸び、房の位置も揃っている。幾何学的な美しさのある畑だ。
マスカット・ベーリーAは果粒の数が多いと種なし果ができやすいと山本さん。ワインに風味を与える種が全ての果粒にできるよう山本さんは、花が咲く前の蕾の状態で肩(房の上部)と先端を落としている。恵まれた栽培条件に栽培家の努力が相まって上質なブドウが育まれる。
山本さんのマスカット・ベーリーAはミズナラ樽熟成の一部となる。1937年建築のケラーと呼ぶ半地下の貯蔵庫ではブランデーの原酒を熟成させていたこともある。このミズナラ樽はビャクダンやココナッツのような香りを持ちマスカット・ベーリーAの甘い香りと呼応し、華やかな果実香を醸しだす。味わいはしなやかだが筋が通っている。マスカット・ベーリーAの新しいスタイルを造りだしたワインだ。
こうした塩尻の個性をより強く主張し始めたワインは、これまでのジャパンプレミアム・シリーズから独立し塩尻ワイナリー・シリーズとして、9月5日にリリースされた。ラベルには誇らしげな塩尻の文字とこのワイナリーの源流となる赤玉に由来する小さな赤い丸が描かれている。
塩尻ワイナリー・シリーズは以下の通り(価格は税抜き参考価格)
- 塩尻メルロ 2014 \3,600-
- 塩尻メルロ 2016 \2,000-
- 塩尻マスカット・ベーリーA 2015 \2,760-
- 塩尻マスカット・ベーリーA ミズナラ樽熟成 2014 \4,200-
- 岩垂原メルロ 2014 \8,000-
ワイナリー情報
住所:長野県塩尻市大字大門543