【ワイナリーを知る・第4回】岩の原葡萄園 日本のワイン用ブドウの父「川上善兵衛」の遺徳を今に活かす
ワイナリーを知る2017年11月09日
豪農の長男として生まれた川上善兵衛は、故郷の雪深い越後高田の湿潤な環境でも栽培しやすいぶどう品種を開発し地域の発展に役立てようと、明治期から大正にかけ1万回を超えるブドウの交配を繰り替えし、その中から優料品種として22品種を品種登録した。赤ワイン用品種として日本で最も広く栽培されているマスカット・ベーリーAはその代表格、川上善兵衛が「日本のワイン用ブドウの父」と呼ばれる所以だ。川上善兵衛は邸宅の庭園や裏山を切り開き明治23(1890)年に岩の原葡萄園を起こした。
【マスカット・ベーリーA】
マスカット・ベーリーAはラブラスカ(生食用)系ブドウのべーリーを母にヴィニフェラ(ワイン用)系ブドウのマスカット・ハンブルグを交配して作りだした。同じく赤ワイン品種ブラック・クイーンと白ワイン品種のローズ・シオターも同じ母を持つ兄弟品種。ブラック・クイーンは山形や山梨などでも栽培され、単一品種のワインが造られている一方、ブレンド用にも使われている。ローズ・シオターとやはり22品種の中に含まれているレッド・ミルレンニュームの白ワイン用2品種は、岩の原葡萄園以外でワインとして製品化しているのはそれぞれ1社しかない、生産量がごく限定的な品種だが、ともに華やかな香りをもつ。
(参考)川上善兵衛が交配した優良22品種
【ローズ・シオター】
ローズ・シオターは昭和2(1927)年にベーリーを母にシャスラー・シオターと交配させ、昭和7年に初めて実をつけた品種。生物学的な樹態遺伝率は母7:父3だが、外観はおおむね父方の外観を引き継ぎ、葉の形状はイタリアン・パセリと呼ばれる父方の特徴的な形状ではなく、母方の形状を受け継いでいる。逆に果実の遺伝率は母1:父9で生食用にもワイン用にも適すと川上善兵衛は「醇良なる白葡萄酒の原料」として「酒位A級にして香味共に良、白酒としては最適ならん」と記している。
岩の原葡萄園では自園産ローズ・シオターからスパークリングワインと2016年からは白ワインを造る。白ワインは、ミカンとマスカット・ブドウの香り、すっきりとした酸と心持ちほろ苦さをもつ辛口に仕上がっている。スパークリングワインのブラン・ド・ブラン・ローズ・シオターは、瓶内2次発酵方式で造り、より柑橘系の香りが鮮明で、酸味も活き活きとしている。
【レッド・ミルレンニューム】 マスカット香を持つ品種を特定できない未称品種(マスカット香のあるヴィニフェラ種とラブラスカ種の雑種と川上善兵衛は推測)とミルレンニュームを交配し昭和8(1933)年に初めて実をつけた品種。樹態の遺伝率は母5:父5で樹勢が強く栽培しやすい。果実の遺伝率も母5:父5だが、果実の風味は「まったく父に類似して其優良なる特典を禀け(うけつぎ)、母のごとき奇臭は毫も遺伝せずして純良なるヴィニフェラの香味を凌駕するをもって生食用としては大いに望みを託すべし」としている。 熟すと果皮の大部分が薄紅色に染まり艶やかな美しいブドウだ。日本のブドウのとしては稀有な華やかな香りをもち、ライチなどトロピカル・フルーツにマスカットぶどう、洋ナシなどの濃厚な香りで、味わいにも豊かな果実味をもつ。 岩の原葡萄園では自社畑産レッド・ミリレンニュームで甘口と辛口の2タイプを造る。甘口は果実を凍結し水分を減らし成分を凝縮させている。辛口は甘口より心持ちマスカット香が強く、味わいに見合う爽やかな酸味をもつ。
ワイナリー情報
住所:新潟県上越市大字北方1223